「監獄少年」というノベルゲームの紹介&レビュー記事です。タイトルは「アベノミクスの真価を問う」とお堅いですが、フツーに読み物としてお楽しみ頂く事もできるやや長編のノベルゲームになっております。イラストや世界観でどっぷり激動の大正時代を堪能するのも良し、マジメに社会問題について考えてみるのも良し、貴方の好きなようにお楽しみ下さい。
目次
舞台は大正時代。主人公 暁哲は思想犯を取り締まる警察(特別高等警察)に努める若手警官。暁哲はその警察内である事件を目撃します。事件の裏には、巨大な利権・思惑があり、主人公らは日本の闇(実在モデルあり)を徐々に明らかにしていきます。
この物語はフィクションです。実在する人物及び団体とは一切関係ありません。
ゲーム内では大逆事件, 特別高等警察, 浅草十二階, 関東大震災など実在の歴史に登場したエピソードも登場します。
ゲームのやり込み要素のひとつであるカード収集をすると、如何に製作者が時代錯誤がないように丁寧に取材して作ったストーリーであるかが伝わってきます。
このゲーム、基本的に悪人は出てきません。大正時代の不況期で裕福でない時代でありながら、「国を良くするためにはどうすれば良いのか」を、それぞれの登場人物が必死に考えます。ですが、考えた結果は、相容れず互いに敵同士になります。誰が「正しい」と一方的に決められるような単純な問題ではありません。
前作「四ツ目神」も同様ですが、社会問題に踏み込んだ説教くさい所がSEEC長編ノベルの良い所でもあります。ゲーム内では様々な社会問題について考えさせられますが、そのテーマのひとつに「弱者切り捨て」「社会進化論(ダーウィニズム)」があります。
ゲーム内では先輩の「弱者を切り捨てるべきだ」との主張に対して、鬼堂大和がキレッキレの反論でフルボッコにするワンシーンがあります。
先輩:
強者は生き残り遺伝子を残すことができる。
社会に貢献できない弱者は死に、遺伝子を残すことができない。
それは人でも動物でも一緒のはずだ。
弱肉強食、自然界の掟だと思うけどな。
それを捻じ曲げようとしてのは、人間だけだ…お前らはそう思わないか?鬼堂 大和:
本当にそうでしょうか。
先輩、その強者と弱者の境目は何でしょうか。健康でしょうか。
金を生み出す力でしょうか。遺伝子を残す力でしょうか。
セリフは一部のみ引用します。この後のキレッキレの大和無双は実際にゲームをやってお楽しみ下さい。
前述の先輩の弱者切り捨ての思想は、さかのぼること19世紀末に生まれた「社会進化論(ダーウィニズム)」を起源としております。この思想は、イギリス・ドイツに始まり、アメリカ、カナダ、南アメリカ、アジアと世界中に広まっていきました。ゲームの舞台となっている大正時代は、「社会進化論(ダーウィニズム)」が多数派になりつつある時代です。
それでは、この当時の状況を今に当てはめて考えてみましょう。アベノミクスにより、貧富の差が拡大しつつあるのは、いたる所で語られています。厚生労働省の勤労統計調査を見れば、大企業の収益が増えているのにも関わらず、実質賃金が低下しているのが読み取れます。
グラフ拝借:世界雑感☆新しい世界は日本から始まる☆
このように貧富の格差が広がっていくと何が起きるでしょうか。「動物農場」「1984」など有名どころの書籍でも同じような主張が見られますが、監獄少年でも次のような一節があります。
目にもあきらかですが、貧富の問題は年々大きくなっています。
知っていますか?貧富の差は、秩序を崩壊させ争いを産む事を……。
今まさに、日本は危うい均衡の上のギリギリの状態で成り立っているのです。
貧困層の不満は徐々に膨らみ、いずれその均衡が崩れる時、
民の暴力は富裕層や現政府へと向かいます。
このような事を考慮すると、実は他人事では済まされないテーマである事が分かります。
このブログも監獄少年も「社会進化論」や「アベノミクス」を擁護したり批判したりする意図はございません。ゲーム内では反対・賛成の両方の意見が紹介されておりますが、ネタバレ自粛という事で片方の思想のみ紹介します。
監獄少年はノベルゲームではあるものの、途中で「探索パート」「尋問パート」と呼ばれる謎解き要素が登場します。謎解きは、類似のゲームに比べれば難易度高めですが、動画閲覧でヒントを見れば決してクリアできない程の難しさではありません。
いわゆる脱出ゲームです。主人公はアイテムなどを利用して謎解きを行います。他の脱出ゲームのように、色々な所をタップするだけでなく、暗号解読のような頭を使う要素も含まれています。
相手が言い逃れできないよう、問い詰めたり証拠品を提示したりするパートです。いわゆる逆転裁判のような形で選択肢やアイテム提示を行うパートですが、難易度は高めです。ストーリーを理解するだけは攻略できない場面もあり、時にはアイテムの形状など意外な所がヒントになっている事もあります。
私個人の意見ですが、尋問パートはわざとMISSするのも一興です。相方の冴木凪のツッコミが面白いので、どんなセリフになるのか一度見てみるのも良いでしょう。
尋問パートと探索パートを収録した動画です。操作感の参考にして頂けると幸いです。
監獄少年は第二章以降の許可ない実況は禁止されております。本動画はSEEC様の許可をもらった上で公開しております。
google playを見ると、評価4.1でシリーズ作「アリスの精神裁判(評価 4.7)」「四ツ目神(評価 4.8)」に比べると低めの結果になります。
評価は低めですが、私は前作と同じくらいの面白さと感じています。評価が低いのは、初期のマネタイズの失策に影響したものとみられます。今までは無料である程度遊ぶ事ができたのですが、今作からはチケット制で1日に遊べる量が限られてしまいました。また、広告動画もシリーズ作に比べると多めです。
このような課金誘導のせいもあり、初期の批評が低めの評価になっています。ですが、いま現在では配布されるチケットも多めになっていますので、今までのシリーズ作と同じような感触で遊ぶ事ができます。本記事執筆時点では評価4.1ですが、時間経過に伴い、評価は徐々にあがっていくと予想しています。
ノベルゲーム好きはやって損なしの一作です。前作「四ツ目神」も同様ですが、時代錯誤がないように丁寧に文献を読み漁ってシナリオを作成する姿勢は、素直に尊敬できます。ただし、「四ツ目神」同様に扱っているテーマが重たいため、徐々にHPを削られる作品でもあります。もしかしたら、元気な時にやった方が良いかもしれません。
もちろん、ノベルゲームならではの「引き込まれるストーリー」「泣ける話」も盛り込まれています。SEECさんのノベルゲームは全体的に秀逸過ぎて、もはや「引き込まれる」「泣ける」は当然になりつつあり、レビューから割愛します。
大事な事なのでもう一度言います、ノベルゲーム好きはやって損なしの一作です。
イラストだけを見ると、「あれ?女性向けかな?今作から男は対象外?」と思う方も居るかもしれませんが、男性の方も楽しめる作品になっています。明治大正期が好きな人はどストライクゾーンの一作です。
当サイトの管理人は男です。女性ユーザの多いゲームは意見が偏らないように、嫁の意見も混ぜるようにしました。
「少年×軍服」って良いよね。っていうか、巫女さんパジャマってあるのに、何で軍服パジャマって無いんだろ。
その後、嫁は「海軍っぽい男子校の制服」を画像検索していました。レビュワー間違えたかな、次は他の人の意見をもらおう…。
物語の途中、どうしてもわからなくてこちらのサイトを参考にさせて頂きました。ありがとうございます!NG尋問パートについては完全に見ないままだったので、こちらのNG集を見て思わずゲーム起動して見に行ってしまいましたw
公開から半年以上経った今コメントを残すのもあれではあるのですが…^^;
現在メインストーリーをクリアして特別ストーリー未読の状態なのですが、物語の中でひょうたん池の付近に現れるあやしげな老婆が出てきますよね。あの老婆が「もう死んでいたはずなのに、何の因果か今ここ居る」「9月1日にずれただけ」「以前のは上から来たが今度来るのは下から来る」みたいなことを言っていた気がするのですが、その辺りがいまいち理解できませんでした…。私が見落としただけで、その辺のことを説明している箇所があったのでしょうか…?
ゲーム内の説明はないですが、9月1日は関東大震災です。「上から来た」は「空襲」を意味し、「下から来た」は「地震」の意味です。
実際の関東大震災は9月1日ですが、「もし9月3日に関東大震災が起きたら」「もし浅草十二階の地下に特別高度警察の組織があったら」という「もしもストーリー」をベースにしたストーリーになっています(うろ覚えですが、SEECの公式サイトかキャラ設定にそんな事が書いてあった記憶あり。出典を思い出せません)。
恐らくゲームのメインターゲットが女子高生・女子大生になっているためなのか、大学入試相当の日本史・政治経済の前提知識を求められるような言い回しが結構見られます。もし、コメント頂いた方が高校生なら、これを機に監獄少年に関する話題の日本史・政治経済を調べてみると自然に知識が身に付くと思います。それほどマニアックではなく、大学入試センター相当の知識になると思います。
しゃういち様
詳細な攻略記事のおかげで第五章の真エンドまで行きつき、ギャラリーカードをコンプできました。あとはゆっくりバッドエンドや分岐を楽しみます。
しゃういち様も「世間の評価」を書かれていますね。
実は、私も最初このゲームを「アリスの精神裁判」や「四ツ目神」より何となくカタくて地味だな、と思って一回アンインストールしてしまいました。
しゃういち様のこの記事を読んで、現代社会に問題提起するメッセージ性があると気づかされ再度インストールした次第です。
社会的ダーウィニズム、自己責任論、貧富差拡大、尊厳死問題、その他現代的なメッセージが多く含まれていて登場人物たちがそれぞれの信念や思想を戦わせていく場面は精神的にきついなと思うところもありました。
でも、私たちはさまざまな主張や情報にアクセスできる現代に生きているのだから、無知でいることも思考停止することもできませんよね。
しゃういち様はこのアプリを「軍服少年たちの成長物語」とか「大正ロマン的世界観が美しい」とか表層的な片付け方をせず、しっかりメッセージを受け止めたうえで勧める記事を書かれていたので、最後までプレイできました。
どうもありがとうございます。これからもサイトの更新を楽しみにしております。
ゲーム攻略サイトにあるまじき、クソまじめな記事なのに読んで頂きありがとうございます。こんな記事でも、監獄少年のダウンロード数を増やす事に貢献できて嬉しいです。
確かに「監獄少年」は取っつきづらいゲームですよね。内容が重苦しいだけでなく初期バージョンは強気の課金誘導だったので、途中で辞めてしまった方もかなり居ると思います。流石に、初期バージョンの頃の1、2話読んで広告動画見せられるのは萎えました。
>あとはゆっくりバッドエンドや分岐を楽しみます。
バッドエンドだけでなく、尋問パートのNGシーン回収もお勧めです。特にコンプリート欲を刺激するような達成画面はありませんが、尋問パートでMISSすると凪の微笑ましいツッコミを見る事ができます。